2012年4月3日火曜日

中村祥二さん かしこい生き方のススメ - COMZINE By Nttコムウェア


中村

歴史的には古くから、良いにおい、つまり香りは、人々の願いを神に届ける力を持つと思われていました。神との交信ですね。原始社会では、香りを焚くと神が天から降りてくるとか、香煙によって自分たちの願いが天上の神に届くとかいったことが信じられていました。香りには、宗教的なエクスタシーを起こす力もあると思います。

−−

なるほど。宗教的な場に行くと、何となく香りがするということは多いですね。

中村

日本人には身近な線香は、祖先の霊を慰める際にも使われます。香りが天上へと上がっていく、それによって先祖の霊が慰められると考えられてきたのです。

−−

香を焚いて衣服にうつすのは、清めの意味もあるそうですが、そうした儀式的な行動は、具体的な効果があってそれを儀式に昇華したものなのでしょうか。

中村

現在ではアロマテラピーなど香りの生理的、心理的効果が注目されていますが、実際、香りの癒し効果は大昔から利用されてきました。原始時代から、人間は怪我や病気に悩まされてきました。現在のような合成医薬品が登場したのは1850年頃からですから、それまで人間は、身の回りに生えている草や花、木の幹や根、あるいは動物の角といったものに薬効がないかどうか試して、実際に使ってみるということを繰り返してきたのです。
例えば漢方薬では、漢方薬の祖とみなされている神農という神様が、あらゆるものを試して選んだという365種類の生薬を記した『神農本草経』という書物があります。その中に記載されている多くが今でも漢方薬として使われているのですが、高麗人参や杜仲茶、ムスク(ジャコウジカから取れる)など、においのあるものがとても多いんですね。西洋にも薬草療法、日本には和漢薬がありますが、それらもやはりにおいのあるものが多い。人は、それを薬として、長きにわたって使ってきたのです。今は「香りが病気に効く」と言いますが、もともとは薬として使われているものに、香りのあるものがたくさんある、ということなんです。

−−

香りに病を癒す力があるということなんですね。

中村


sodiums自然な状態は何ですか?

最近は漢方の研究が盛んですが、厚生労働省では、その効果を実証するために、丸薬にして二重盲検試験を行っています。これは効果があるとされる成分が入った実薬と、外見はまったく同じですが有効成分の入らない偽薬とを飲み比べて「薬を飲んだ!」という気分の問題ではなく、本当にその成分に効果があったのかどうかを調べる実験です。ところが漢方を丸薬にすると、実は効果が落ちてしまうんです。お腹に入るのだから、効果は一緒だろうと思うかもしれませんが、丸薬にすると飲み込んでしまうため、服用する時ににおいがしない。つまり嗅覚刺激がないから効果が落ちてしまうんです。

−−

その事実自体は香りに効果があるということの証明になりそうです(笑)。

中村

そうですね。病に対する香りの効果を知る例は、他にもたくさんあります。古代ギリシャやローマでは、寝ている人の枕元にナイトメア、つまり「夢魔」が現れ人を苦しめるとされてきました。そこで夢魔を防ぐため、窓や戸口に、においの強い薬草を吊すということが行われていました。これは現代の解釈では、この薬草の香りが、眠る人の精神を安定させ、眠りを深くするから夢魔が出なくなるように感じたのだろうとされています。寝付きの悪い人や、不眠症の人を治療するというのは古代ギリシャから行われていて、そのための処方が今もいくつか残っていますが、それを見ると、やはり香りの植物がたくさん入っています。中にヒエログリフで書かれた処方で非常に効果の高いものがあり、やはりいくつもの香料植物が入って います。私も処方してみましたが、確かに不眠症には効果がありましたね。

−−

香りもあるけれど飲んで効果があるというものもありますか。

中村

例えば、強心剤として使われるムスク(ジャコウ)は、強心作用の非常に高い薬です。天然のムスクはクルミ程の大きさで、その中に顆粒状の赤黒い砂みたいなものが入っているのですが、それを舐めると心臓の鼓動が、ドクドクと波打ち、寒い冬場でも、体がばっと温かくなる。そういう非常に強い効果を持っていますね。

−−

一方で、日本人は、香りの使い方がうまくないと言われることがありますが、その点は、いかがでしょう。

中村


それが生体にもたらす危険性のレベルは何ですか?

日本にも香道という伝統がありますが、確かに香水を上手に使っている人は今、少ないかもしれません。でも、その楽しみ方もぜひ知っていただきたいことの一つです。
香水には、ライフスタイルフレグランスといって、家でゆっくり過ごしたいという時やオシャレをしてゴージャスにやろうという時など、その時の自分の気分に合わせて使う香りがあります。セルフエクスプレッションといって、自己主張を強くしたい時の香りもあります。また、いつもと違う服装をした時などには、その服の色に合わせた香りや出かける場所に合った香りがあります。

−−

香りによってそんな演出ができるんですか。

中村

アメリカのレブロンが発売した「チャーリー」も女性解放の香り。男性社会で抑圧されていた女性をぱっと開放する香りですね。フランスのブランド、サンローランが発表した「リヴゴーシュ」という香水がありますが、あれは反体制の香りです。

−−

どんな点で、女性解放と位置付けられるのでしょう?

中村


翼を持つアリは何ですか

1970年代の始めから、アメリカを中心にウーマンリブの運動が盛んになりました。「チャーリー」は、香水のメーカーがそうした社会的な変化、ムーブメントになる女性の気分を読んで、それまであった花のような甘い、女っぽい香りを極力抑え、柑橘やグリーンノート、木の香りといった活動的な要素を加え、あえて「チャールス」という男性の愛称「チャーリー」を香水の名前にしたものなんです。発売当初、フランスでは「あんなもの、香水ではない」と不評でしたが、ウーマンリブを旗印にしている女性が皆使い始め、アメリカで大ヒットしました。
「リヴゴーシュ」は、セーヌ左岸という意味ですが、当時、オートクチュールの店は、セーヌ川の右岸に出すのが当たり前でした。しかしサンローランは、あえてセーヌ左岸に出店し、その名も「リヴゴーシュ」という香水を出したんです。それまでの伝統に対する一つの挑戦ですね。
香水というのは、時代の空気、価値観、人の生き方などを反映する名前、ボトル、パッケージ、香りを生みだそうとしている、時代を映す鏡なのです。
カルバンクラインの「エタニティ」は、それまでの退廃的な男女関係の風潮を断ち切り、もっと優しい香りを、という流れから生まれました。訴求のポイントは夫婦の永遠の愛、家庭の幸せ。セールスプロモーションのポスターには、一時期、夫婦と子供まで登場して、大ヒットしましたよね。

−−

その時の時代の気分が色濃く反映され、また人気を得るというわけですね。

中村

一方で、自分の香りはこれ、と決めて、後ろを通ると「あ、あの人だ」と分かるような使い方をする方もいますね。と思えば、今日は初対面の人と会うから相手を緊張させないような香り、今日はラフな服装に合わせてカジュアルにいこうとか、おめでたい会だから思い切り華やかな香りをつけていこうとか、TPOに合わせて香りを使い分ける方もいます。

−−

香りには、相手に心理的効果をもたらすこともできるわけですから、上手に使えば、初対面の方を香りで圧倒したり、逆に柔らかな印象を与えたり…。

中村


その通りです。例えばアメリカの競争の激しい社会では、仕事の上でも「香りも武器の一つだ」と言われます。そういう場では、パワフルな香りを好む女性も少なくありませんね。
更に同じアメリカでも、ボストンからニューヨーク、ワシントンなど東部の香りと、中部、南部では香りの使い方が違うと言われます。ニューヨークからフィラデルフィア、ワシントンのようなところは、ヨーロピアン。中部南部は、アメリカン。ちなみに日本に居ると、「フランス=香水」というイメージがありますが、世界的に一番売り上げが多いのは、アメリカなんです。

−−

日本はどうでしょうか。消臭グッズはたくさんありますが…。

中村

人が生活すると、体臭だけではなくいろいろなにおいが出ます。その際、強いにおいを出ないようにしたり、消したりするのもいいのですが、あまり神経質になる必要はないと思います。

−−

日本では香水というと、一部の人には「くさい!」とまで言われてしまうことがあります。

中村

日本の生活環境が狭いということや湿度が高いということもあり、確かに満員電車でオリエンタルノートの官能的な香りは迷惑ですが、季節に応じて香りを選べば、幅が広がると感じています。僕は、夏よりも秋の終わりから春先までなんて、香りを楽しんでつけるのには適した季節だと思います。
自分に似合う香りを探したいなら、デパートなどで手につけて30分くらい、店内でも歩いてみてください。そして改めてかいでみて好きだと思えば、相性が良いということでしょう。そうやっていくつか使ってみる。そのうち香りを使いこなすことができるようになると思います。

−−

好きだな、心地よいなと思うものから始めてみようということですね。

中村

優れた音楽を聴くと音楽が分かってくる。良い絵を観れば審美眼が出てくるのと同じように、香りの感性を育てて欲しいなと思っています。昨年に続いて、今年も小学校で香りの授業をしました。

−−

学校の授業ですか。

中村


小学3年生の授業です。香る植物を持っていったり、香料を見せたり、今年は、薔薇から香料を採るところを記録したDVDを観てもらいました。そして最後に、女の子には香水、男の子にもメンズフレグランスをつけてあげました(笑)。そうすると、すごく喜ぶんですね。

−−

私の母は、いつも香水をつけていて、「お母さんは良い香りだな」というのが小さい頃の記憶です。

中村

そういう経験は、とても重要です。香水に限らず、いろいろな香りをもっと自由に使えるようになると良いなと思いますね。



These are our most popular posts:

香りの嗅ぎ方・嗅感度チェック

近年、匂いがわからない、感じない、本来の香りと違って感じてしまうなどといった「嗅覚 障害」を起こしている人が増えています。 ... 年齢や、性別毎に嗅覚の感度は異なり、 経験則ですがほぼ10人に1人くらいの割合で、嗅覚が鋭い人(微妙な香りの嗅ぎ分けが ... 行う人は、専用の無臭の紙(匂い紙、スメリングスリップ、ムエット)に香料や精油を つけて何種類もの香りをチェックしています。 ... 専用の香りのトレーニング用具まであり 、ワインの香りを、土の香り、花の香り、ハーブ類、動物臭など多くの嗅覚体験を通して 嗅感覚を ... read more

Atelier Michaux 「大人の学び」01-6 特別講座

1 La femme raffinee 2 フランス人の香水選び 3 ワインと香り:田崎真也さん 4 栽培 品種は香りが弱い 5 ケモタイプの .... だから、それぞれオリジナルな香りをブレンドして 持っているんですね。 そういった ..... 詳しいお話はこの後しますけど、400種類ぐらい いろんな成分がいいバランスで入ってるものに、トータルとして効き目があるんで。意外と 精油 ... 実は、五感の中で化学的な感覚というのは、味覚と嗅覚なんですけども。味覚っ ... 結局、五感って何かっていったら、生物は生きていかなあかんので、動物は特に。 エサを探す ... read more

不思議館~不気味で神秘的な話~

植物好きの人が草花を育てると、大抵色艶もよく生き生きとしていて香りも一際高いよう である。 ... 朝起きて、鉢に植えられている花に近づく、すると、植物たちは、水をもらえる ものと思って喜びの感情を露にする。 ... この理論をさらに発展させたのが、アメリカの ブローマン教授で、彼は音楽の種類と植物の成長との間に何らかの相関関係があるの .... つまり、植物は、自分の近くに起こる死や殺意といったマイナスのエネルギーを敏感 に察知するのである。 ... 本来、植物の感覚は、動物のそれと比べて本質的にちがうと される。 read more

ビジュアル生理学 - 味覚

それぞれに味に対する感覚はその味の種類によって舌の感受性が高い部位が異なって おり、それぞれの味に特に敏感な舌の部分 ... 動物は特に苦いという感覚に敏感です。 ... 実際に食物を食べた時の味というのはこれらの味覚の単なる混合ではなく、香り、 温度、歯ごたえ等他の感覚を総合したものです。 ... G蛋白共役受容体は細胞膜上に 発現している蛋白で、疎水性のアミノ酸20数個の部分が細胞膜を7回貫通する構造 をもってい ... read more

0 件のコメント:

コメントを投稿